紋浪ちゃんの覚え書き

気になることとか拙い和訳とか

肉体労働者になった夜。

 

「ふざけんな!あたしは15の頃から中卒肉体労働者」

 

 

私が結構好きなフィメールラッパーの椿氏より。

 

1分13秒あたりからどうぞ。

 

さてさて、肉体労働

 

事の発端は、前回の旅行から帰ってきた時。

 

圧倒的に金がなくなっていた!

 

てなわけで夏に向けてアルバイトをすることになったんだけど、大衆中華料理屋のアルバイトにもなれたし暇だったので、前々から興味があった派遣に登録してみることにした。

 

そんなわけで、適当に見繕った派遣に登録して、紹介された軽作業の現場に行ったのが今夜。

 

6時から10時までのシフトで入ることになった。

 

最寄りの駅から送迎バスが出ているという事だったので、待ってたらバスが来た。

 

「○○派遣から来ました!」

 

というと、ガラの悪い運転手のにいちゃんが顎で座るように合図した。

 

(今、たしかに人権がなくなる音が聞こえたぞ…!)

 

と、若干興奮する私。

 

バスに揺られる事15分程度。

 

現場に着くと、携帯電話を没収されて、

そこの抜けかけたボロボロの黒い長靴みたいな作業靴を履いて。

 指定された色のヘルメットを被った。

 

後で聞いたけど、このヘルメットの色は派遣会社ごとに違うらしい。

 

 てなわけで、すっかり労働者の出で立ちになった私は、気のいい兄さんに連れられて作業場へと連行された。

 

「体力勝負になるからね〜」

 

と言って兄さんは去った。

 

私の仕事は、無限に供給されるラックの中のダンボールをひたすらベルトコンベアの上に乗せていく事だった。

 

 封筒とか紙袋は青いレールに。

ダンボールは黒いレールに。

 

頭の中がダンボールと封筒だけになる。

 

ラックが空になれば、

「おねがいしまーす」

と叫ぶと、ガラの悪いおっさんが空になったラックと、ダンボールがたっぷり入ったラックを交換してくれる。

 

交換されたらまた最初から。

 

ラックが空になるたびに、「お願いしまーす」と叫ぶだけ。

 

 脳みそが全く動いてない感覚。

 

何だか私までベルトコンベアになった気分だった。

 

ダンボールは重い。

 

ラックは大きいから、てっぺんのダンボールに手が届かない。

 

崩れてきた荷物の下敷きになりそうになったり、仕事は命がけだった!

 

 間違えて仕分けると、怖いおばさんのゲキが飛ぶ。

 

 そのババアの恐ろしかった事。

 

ババアが恐ろしいから間違えないように脳みそを動かす。

 

でも肉体労働で疲れて腰が痛くて意識が朦朧としてくる。

 

でもババアは怖い。

 

まるで鞭で打たれるのが嫌で荷馬車を必死で引くロバみたいだ。

 

ベルトコンベアに沿って無数の人が、無数のダンボールを無言で乗せていくだけの空間は異常だった。

 

最初は辛くて。

少ししたら腰が痛くて。

そして更にすると何も考えなくなった。

 

ただ目の前のラックが空っぽになることだけが嬉しいのだ。

 

もはや洗脳されている。

 

手遅れである。

 

ラック内から頭をぶつけてもヘルメットがあるから痛くない。

 

そうか、だから今私はヘルメットを被っていたのか。

 

などと意味のわからないことを思った。

 

ベルトコンベアの頭上には無数に太いパイプが通っていて、そのパイプからわずかな冷風が出ている。

どうやらクーラーのようだ。

 

このパイプを自分の方に向けて作業をすると、快適だぞ、と隣のおっさんが教えてくれた。

 

私は最初は愛想笑いでこのアドバイスを流したものの、

あまりの暑さに耐えかねて、パイプに手を出して自分に向けると一抹の快適さに唸った。

 

やはり年長者のアドバイスには、耳を傾けておくものなのだ。

 

そして、看守…じゃなくて作業場の監督が

「ベルトコンベア止め!」

と言って、ゴミ拾いをしてゴミ捨てをしに行った時、ゴミ捨て場の時計を見ると、9時になっていた。

 

ええ…私三時間もノンストップでベルトコンベアにダンボール乗せてたの…!

 

と自分にドン引きしてしまった。

 

どうりで、腰が痛くて汗が止まらないはずだ。

 

そのあとは、ひたすらトラックに向けて都道府県別に仕分けされた段ボールが入ったラックを引きずり回して行く。

 

「10時までまだたっぷり時間があります!みなさんしっかり働きましょう!」

 

と看守がアナウンスしてる時間はもう9時45分。

 

最後まで人を使い倒そうという根性が垣間見れてとてもいいと思った。

 

巨大な冷蔵庫を引きずって広大な作業場を迷い歩き、そんなことを無数に繰り返した。

 

そして私は文字通り10時しっかりまで働いて、携帯を返してもらった。

 

待合室は日本語は聞こえず、ベトナムなのか。

 

中国語でもない東南アジア風の言葉が飛び交っていた。

 

なぜ。私はこんなことをしているんだ??

 

なぜ。私はここにいるんだ?

 

てか、ここはどこなんだ?

 

日本なの?

 

そんな朦朧とした意識の中でバスに乗り込んで、私は駅について電車に乗り込み。

 

スマホをいじりながらようやく現実世界に帰ってこれた気がした。

 

 でも。

 

カオスで訳がわからないことばかりで疲れ果てたけど、変な爽快感があった。

 

もう一回くらい行ってもいいかなあ。

 

と思った。

 

でも、このバイトの話を面白コンテンツとして両親に話したらめちゃくちゃ怒られたし。

ケビンは、「可哀想!」って泣いちゃったし。

 

多分もう行くことはないような気もする。

 

軽作業のはずだったのに、飛んだ重労働だったしね!

 

でも、久々に何も考えないで無になって。

 

気がついたら夜になってるあの不思議な感覚は癖になりそうなくらいに気持ちが良かった。

 

でも。腰痛は勘弁だから次こそは軽作業の現場に行きたいものだなあ、と思いながら私は帰路につくのであった。

 

おしまい。