昨日いきなり同居人からメッセージがきた。
というか、同居人と書いてるけど、私が上海に行って例のバックパックを始めてからはほぼ音信不通になってしまっていたのである。
で、バックパックから帰ってきたら宿舎から同居人の荷物が綺麗さっぱり消えて無くなってしまったのである。
ええ…嫌われたんかなあ。
などとおもっていたんだけどこれが私のいないところで大変なことになっていたようで。
今日はそんな話をしようと思う。
もともと、北京にいた頃ボスと話した時、
殷くん張くんのビザは降りたものの、同居人のビザの取得に難航してるということをちらりと聞いていた。
でもビザの取得ならば私も中国に来る前にまあまあ苦戦したし、と呑気なことを思っていた。
一応心配だったから殷くんと張くんに連絡を取って、
「なんでりゅうちゃん(同居人)のビザだけ難航してると?」
と聞いたところ、
「高校卒業だからじゃないの?」
と呑気な返事が来たから、てっきり私は手続きの煩雑さのおかげで彼女のビザが遅れていると思っていた。
でも、今日同居人から
「私、1月に日本に行くことになった。」
と、メッセージが来て彼女のビザが完全に降りなかったことを知ったのである。
すぐさまボスに(抗議の)電話をいれた。
「なんでりゅうちゃんのビザ降りなかったの!今聞いた!ちゃんと!説明!して!ください!な!」
「サインの不一致と、高校卒業の時間長いことですね!」
「(サインの不一致はあんたの事務手続きミスの気がするけど)高校卒業の時間長いどういう意味ですよ?」
「あのね、劉さんは高校卒業した。それで日本行く。時間長いですね。それが原因ですね」
「劉さんは高校卒業しましたよ。そこから日本行く時間長い。なぜ問題か?」
ボスと話してるとだんだん自分の日本語までおかしなことになって来る。
頼むから中国語使ってくれ!
もはやその方が話が早い気すらしてくる。
こんな調子で根気強く(喧嘩腰で)問いただしたところ、彼女が高校卒業してから日本留学に行くまでの期間が不自然に長いからこの点を日本政府が不審に思ってビザの申請をはねのけたらしい。
「わかりましたありがとうございます。」
「あなた最近ちょっと大変ですが?怖いですね。私嫌いですか?」
今はそんな話してる場合じゃねーだろ!なんでそんな話になるんだ!ぶっとばすぞ!
と怒鳴り散らしたい気持ちを抑えて。
「あっはっはー!そんなわけないじゃないですか。あんまりにも劉さんが心配だから怖いこと言いましたね。先生ごめんね!」
と電話をぶちぎった。
あのおっさん(ボス)、前々から脳内お花畑だと思ってたけど今回確信した。
あいつの脳内お花畑なんてカワイイもんじゃねーや。
百花繚乱の花園よ!
で、だいたい大事なことをボスから引きずり出したところで、再度劉ちゃんに連絡。
「ねえ、大丈夫?」
「うん。ねえ、先生。今日うちに来れる?明日ちょっと遠くに遊びに行こうよ。」
普段この手の誘いが来ると出不精な私はすぐに逃げようとするんだけど、
今日ばかりはそうしようとは微塵も思わなかった。
「勿論。何時がいいかな?」
てな訳で、最寄りのバス停を教えてもらって同居人の家へ行くことになった。
バス停まで迎えにきてくれた同居人は思ったより元気だった。
でもやっぱりいつもの豪胆な感じは薄れてて、なんだかかわいそうに見えた。
同居人のお母さんは持病があるらしく、この夏はそれがひどく悪化して家事もままならないということで、同居人は家族の手伝いのために一度荷物をまとめて家に帰ったらしい。
「びっくりしたよ、私嫌われたのかと思ったわ!」
と言ったら、
「そんなことあるわけないじゃん。もし嫌いになったら嫌いって面と向かって言ってから出て行くわ!」
と私の心配を豪快に笑い飛ばす同居人。
久しぶりにあったからたくさんのことを話して、
「あのね!8月のこの日とこの日とこの日ね、彼氏に会いに行ったり友達と遊んたりしたんだけど、親には先生と旅行行ってたことにしてるの、おねがいね!」
とちゃっかり口裏合わせを頼んできたときはおもわず笑ってしまった。
しかし次の瞬間、この日は泰山のぼりにいったことになってて、この日は北京行ったことになってる。
で、この日は…
と、この怒涛の設定を暗記するのに必死なる羽目になった。
で、うかうかしてると同居人のお父さんが
「娘との旅行はどこが一番楽しかったかな?」
などと聞いて来るから肝を冷やしたりもした。
あまりにもいつも通りだから怖くなって、
「日本…1月になったって、ボスから聞いた。その、なんて言えばいいかわからないけど。大丈夫?」
と切り出した。
同居人はちょっと考えて、少し笑って。
「あのね、私今日N4合格したの。夏休み一人で勉強したんだ」
といった。
もう何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
6月、日本に行くのに必要な条件のN5という日本語の一番簡単な試験をみんなで済南まで受けに行った。
そこから2ヶ月また頑張って、一つ上の級に同居人は合格したという。
「すごいね。一人で勉強してさ。私は出来ないよ。」
なんだか当たり障りのないことしか言えない自分が嫌になってしまう。
いつもなら、「ああ日本語なら言いたいこと言えるのにね!」と思ったりするんだけど、
今は中国語も日本語も関係ない。
私は彼女にかける言葉を頭の中に用意することができない。
なんだか日本人なのに、ちょっと日本が憎くなってしまった。
たかが紙切れだろ!日本に中国人何人いると思ってんだ!今更一人くらい誤差だろ!さっさとビザを下ろせ!
と滅茶苦茶なことを叫びたくなってしまう。
こんなのってない。
同居人はいろんな事情があって中国の大学には行けなかった。
その理由は私にもわからない。
いろんな噂が飛び交っていて、同居人の言ってることもコロコロ変わるし、隠したい何かがあるのかもしれないし、ないのかもしれない。
でも彼女は勉強したいし、自分と同じ年齢の人間がやってることと同じように大学で勉強したいのだ。
彼女はそんじょそこらの人間よりもよっぽど優秀で、可能性があって度胸だってある。
こんな中国の片田舎で家事手伝いしながら燻っていていい人間なんかじゃないのだ。
私はそう思ってる。
だからこそ一生懸命彼女の日本行きを私にできることを精一杯やりながら応援してきたつもりだったのに。
まさかビザが下りないなんて。
今まで私は日本の中に日本人として身をおいで生きてきた。
だから、外国人のビザのこととかそういうことを考えたこともなかったけれど。
むしろ、ビザの引き締めをやるなんて話をニュースや新聞で目にした日には、
「もっとやれもっとやれ」なんて思ってたりした。
そもそも高校までは私は中国が嫌いだったからね。(高校在学当時2012年の反日デモを見たから、という短絡的な理由)
中国人なんて日本に来なきゃいい!なんて思ってさえいたよ。
こうやって中国語を勉強して中国を知り。
中国語を話せるようになって中国人を知り。
そんなことを思っていた過去を死ぬほど恥ずかしいと思っている。
中国人の立場に立って日本を見たとき、
日本はなんとまあ入国するのが困難な国なんだと思った。
預金額が250万以上必要で、それを証明する証明書が必要で。
在学又は卒業した学校の証明者が必要で、
卒業した年度から2年以内に日本に来なければ留学ビザが下りないのである。
(この辺の詳しい事情が知りたい人は自分で調べて欲しい。私は友人たちから聞いた話をそのまま書いてるだけ)
私が中国に来たときはそんな苦労は一切なかった。
ビザが降りるか心配する私に、私の中国語の先生(ボスの友人)は、
「力を持ってる人が手を貸せばビザは降りる。あなたのビザは降りるわ」
と呑気だった。
まあその力を持ってる人が、脳内百花繚乱の花園のボスだったわけだけど。
そして、私の留学生ビザもボスがごちゃごちゃしてたらいつの間にか下りていて、必要なはずの健康診断も受けることはなかった。
「先生、なんで私ビザおりたの?」
「私簡単なこと。心配しないー」
と相変わらずよくわからんボスではあったけど、同居人にその話をしたことがあって、その時の同居人の答えも私の中国語の先生と似たり寄ったりだった。
「中国ではね、規則がどうかよりも誰が噛んでるかが大事なの。だから、あいつ(ボス)が先生を必要としてビザを降ろそうとする限りビザは降りると思うよ」
と言ったから私はひどく驚いたものだった。
だってそんなん、日本じゃ考えられない話でしょ。
整えられた規則の上ではどんな人も残酷なほどに平等に扱われる日本。
悪名名高きお役所仕事。
付け入る隙なんてまるでなくて、いっそ清々しいほどわかりやすい日本。
日本の入国管理局はその規則に則って日本の安全を守るために水際でがんばってる。
彼らは自分の仕事をしたまでだし、私の母国日本を守るために最善を尽くしてるだけ。
さっきは同居人のビザを降ろさなかったことに関して入国管理局に怒りを燃やしていたけどこんな風にして日本の安全と規律は保たれてるだなあ、と外から見て初めてわかった。
同居人のビザのことで先ほどに書いたボスとの電話の際、
「そういや、私のビザはどうなるんですか?」
「心配しなーい。簡単なこと。」
「本当に簡単なの?」
「中国のビザは難しいない」
「じゃあなんで日本のはダメなの!」
「日本は安全な国ですね!難しい」
いや、あんたがそれをいうんかーい!
それは日本人の私のセリフであってあんたのセリフじゃないからな!
まあボスの言う通り、日本の規律や治安を守るのに入国管理局やビザに携わる人たちの努力が大きく貢献してるのは間違いない。
じゃあ、私と同居人のやり場のない気持ちはどこへやればいいんだろう。
今すぐ入国管理局の偉い人の前に同居人といってさ、いかに同居人が素晴らしい人間なのか演説したい。
できることなんでもやってあげたい。
でも、どうして同居人のビザが下りなかったのかきっと私は知ることができないのだろう。
誰かが過去に犯したあやまちによって、彼女の未来が行き詰まり今回の日本行きまでも阻んだのだ。
その犯人が誰なのか私はきっとずっと知ることができないのだ。
なんにせよ、1月に同居人のビザが無事おりた暁には今度こそ光の当たる道を、同居人が同居人自身の二本の白くて長い足で歩いていくことを願ってやまない。
そして私も、分不相応な賞賛と与えられるものに酔いつぶされてバラバラにならないように。道を踏み外さないように、正しいものだけを選び取り自分に恥じない道を歩いていきたいと思うのである。
今日の話はほとんどの人がよく分からないと思う。
ごめんね。
次回は楽しい記事を書くから待っててね。
おやすみ。